私の見える範囲

うちに…出向で来てくれてた人が、いなくなった。
契約期間が終わって、いなくなった。
その人は、お世辞にも優秀な人ではなかった。
ある分野のスペシャリストとして契約したのに、力を発揮することはなかった。
隠していたとかじゃない、最初からなかった。
だから、ウソつき、って思ったし、費用対効果が合っていなくて、面倒を見る私も肝が冷えた。
指示待ち人間…
一言で言えばそうだろう。
でも、その人は、できなくても、注意されても、引きずらない人だった。
気がつけば、にへらっとして、雑談を持ちかけてきたりした。
そんな姿から、自分も学ぶことがあると感じたのだった。
私は、自分の感情を制御することが苦手だから…つらい、とか、いやだ、とか、ああ、怒られたな、ってときは、表に出ちゃうし、その日一日は立ち直れないから、…。
だから、その人は、すごいと思った。
こんな人には会ったことがなかった。
そんなポジティブなところは素直にあやかりたいと思った。
人間の価値評価って、色んな軸があるんだなって思った。
仕事ができなくても、ポジティブ。それでいい。
学びを得た出来事だった。

別の、辞めた人のことも思い出す。
今まで、人が辞めるときって、会社に居場所がなくて、追い詰められて、逃げるように、辞めるものだと思ってた。
でもその人は、次の職場ではこんなことがやりたいとか、お賃金が増えるとか、楽しそうに未来のことを語っていた。
そんな人は自分にとっては初めてで、思い返すとパラダイムシフトを感じていたと思う。
自分の人生は自分で選べること、今の会社にいても良いし、別のところに移ってもいい。
それを選ぶことができて、離れることを選んだ人はいなくなった、そういうことだったんだ。

自分は、今の場所で生き延びているだけで、えらいと思っていた。頑張っていると思っていた。
それはそれで良い考え方だと思うけど、これからは新しい視点を持っていこうと思った。
それは、自分はこの場所にいることを、自分の意志で選んでいる、ということ。
ここにいる理由を持って、ここでやるべきことを考えて、自分の選択が、ウソや惰性にならないように、常に自覚していること。
それが、私がここにいる意味、なのかもしれない。
これが、大人なのかな、なんて。わかってる。自分は年齢的にはいい大人。でも、精神的には未熟者なの、わかってるから。ずっと誰かの後ろで、矢面に立たないように、責任を持たないように、逃げ続けてきたんだから。
それが、殻を破って、出てこようとしている。生まれたばかりのひよこは、とっても傷つきやすいかもしれない。実際、傷つくこともたくさんあると思う。
それでも、一歩踏み出せるかな。
黄色い産毛が、白い毛に、変わっていけるかな。
待ち構える未来は、少し怖いけれども、期待もほんのりと感じている。